野良犬。故郷に帰る。

煮え湯を飲まされ、辛酸を舐め、砂を噛むような思いをしても、故郷に帰る夢は諦めない。

その日 何が起きていたのか 7

一階の工場に降り

工場のドアを開ける。

当時三台あった印刷機が激しい音を立てて回っている。

父は従業員に向かって軽く手を上げる。

起業以来続いている、作業を一時中断する合図だ。

父の元に集まってくる従業員に話す。

 

「今やっている仕事は、3日で終わるか?」

 

「急げば2日で終わると思います...。」

 

「わかった。大変申し訳ないが、2日で終わらせてくれ。

 で、今月分と来月分の給料は明日現金で払うから、

 いったん自宅待機にして欲しい。

 次の職場を探してもらっても、もちろん構わない」

 

従業員がざわつく。

 

「社長、何でですか?何があったんですか?」

当然の質問が矢継ぎ早に父に投げかけられる。

父ですら、事の全容を全て知っているわけではないが

何らかの説明をしなければ、とても収まらない。

 

「.....。まだそうと決まった訳じゃない。決まった訳じゃないが、

 姉さんの行方が日曜日の朝からわからないんだ。

 そして、同じタイミングで会社の預金が全て下ろされていて、

 この建物は既に半年前に他人の手に渡っている」

 

「じゃあ、じゃあ、潰れるんですか?」

 

 

「わからん....。でも極めて厳しい状況なのは確かだ...。

 本当に申し訳ないんだが

 俺も、今日それを知ったんだ」

 

従業員は顔を見合わせる...。

父は目をそらさず、従業員の顔を

見つめていた。