野良犬。故郷に帰る。

煮え湯を飲まされ、辛酸を舐め、砂を噛むような思いをしても、故郷に帰る夢は諦めない。

お前は貧乏人 4

「おい!

  お前の家、

   お化け屋敷みたいなんだってな!

  貧乏だから引っ越したのか?

  この貧乏人!

   お前は貧乏人だ!」  




友達二人が私の誘いを断って

帰宅した翌日の下校時、

一人の同級生が、私に罵声を浴びせた。


彼の名は石川【仮名】

一年生の時から私と折り合いが悪く

何度か取っ組み合いの喧嘩をした事が

ある同級生だ。


一卵性の双子であった彼等は

常に何人かで徒党を組み

順番にクラスの誰かを標的にしては

虐めを繰り返していた。


石川兄弟は、取り巻き数名と

下校する私の後を着いて歩き


楽しそうに囃し立てる。


「貧乏人!  貧乏人!

   お前は貧乏人!

   とーちゃんも かーちゃんも

   貧乏人!」


  帽子を被った頭に

コツコツと何かが当たり続けている。


彼等は道端の小石を拾っては

私の頭を狙って投げつけていたのだ。



私は黙って下を向いて歩いていた。



昨日、一緒に帰宅して

新しい自宅を見た友達のどちらかが

石川兄弟に話をしたのは明白だ。

当時、私達は7歳。

友達も悪意なく話したのだろう。


そして新しい虐めのターゲットを

探していた石川兄弟とその一派からすれば


元々気に食わない私が

「お化け屋敷」のようなアパートに

引っ越した事は

虐める理由として十分だった。


私は尚も、下を向いて

無言で歩き続けた。



小石を投げ続ける石川兄弟と

その一派を憎みながら。

石川に話してしまった友達を憎みながら。


それでも、言い返す事すら

出来なかった。


私自身が、自宅アパートに劣等感を

感じ始めていたし、


何より次の虐めの標的に

私が選ばれた事に怯えていたのだ。