野良犬。故郷に帰る。

煮え湯を飲まされ、辛酸を舐め、砂を噛むような思いをしても、故郷に帰る夢は諦めない。

お前は貧乏人 3

慌ただしく新しいアパートに引っ越した

翌々日。

1980年4月7日  

私は小学校二年生。姉は三年生の始業式を

迎えた。


竹田さんのおじいちゃんが

保証人になる事で入居が許された

アパートは以前の自宅から徒歩十分も

かからない場所だ。


小学校を転校すること無く

同じ小学校に通う事が出来た。


私達家族にとっては

それぞれがその後の人生においても

比肩しうるものが無いくらい

衝撃的な出来事が起きた春休みだったのだが


私達姉弟にとって

拍子抜けな位、今まで通りの学校生活が

始まった。


春休み前と同じ学校。

春休み前と同じ友達。


1980年3月25日に私が遊ぶ約束を

破った事を責める友達もいなかった。



変化の兆しが見え始めたのは

始業式から二、三日経ってからだろうか?


授業を終えた下校時に

友達の一人が、私の下校する道が

変わっている事に気付いたのだ。




「あれ?

   お前の家、そっちだっけ?」


何気無い友達の一言。



新しい家に殊更劣等感も抱いていなかった

私が応える。


「そうなんだ。

   春休み中に引っ越ししたんだ...。

   新しい家、見にくる?」



「うん!

   行く行く!」


本当に他愛も無い会話を交わしながら

私と友達二人は、進路を変えて

私の新しい自宅に向かう。


当時私が通っていた小学校は

公立にしては珍しく

制服がある小学校だった。


白いワイシャツに紺のブレザー

紺の半ズボンを履いた3人は

春の日差しの中、はしゃぎながら

歩く。



間も無く、新しい家に到着した。



「ここだよ。

  ここが新しい家なんだ...。」



築30年は越えているであろう

艶のない、焦げ茶色に変色した

板張りの壁。


とっくに色褪せている

赤いトタンの屋根。


元は薄い緑色であっただろう

二階に上がる外部の鉄骨階段は

塗装が浮き、至る所から

赤黒い錆が顔を覗かせている。


そんな古ぼけたアパートだ。





「ウチは一階なんだ...!

    上がって遊んで行く?」


私からの誘いに

友達二人は顔を見合わせている。


しばらく顔を見合わせた後に

一人の友達が口を開く。



「...。いやあ...。

  今日はやめとくよ...。

 寄り道すると怒られるし...。


  それに...。

  なんか、お化け屋敷みたいだしさ...。」



ある意味子供らしく純粋で

純粋だからこそ残酷な言葉を残し

四月上旬の暖かい日射しの中

友達二人は走り去る。


走りさる背中を見つめながら

私は初めて、新しい家に劣等感を抱いた。



「ぼくの家は

   お化け屋敷に見えるんだ...。」