野良犬。故郷に帰る。

煮え湯を飲まされ、辛酸を舐め、砂を噛むような思いをしても、故郷に帰る夢は諦めない。

お前は貧乏人 2

1980年4月5日  夕方。

西に傾く夕日を左側にうけながら

渡した家族四人は北に向かい歩く。


先頭は父。

黒いタートルネックのセーターに

グレーの作業ズボン。

大きな歩幅で歩く父に遅れまいと


私は時折小走りになりながら

二番手を維持する。


「副お父さん」のプライドからだろうか。


少し遅れて

母と姉が手を繋いで続く。


左側から指す強い西日は

私達家族の影を右側に長く延ばしている。



私達家族四人は

まるで葬列に加わっているかのように

無言で歩いていた。



自宅から徒歩約10分の

引っ越し先のアパート

竹林さんのおじいちゃんに紹介された

アパートに向かう。




「...。

   ここが新しい家よ。」


母が私達姉弟に声をかけながら

一階の一番手前の部屋の

傾いた引き戸を開ける。


半畳の土間から部屋に上がると、

三畳の台所と四畳半の和室。

畳は長い期間交換されていないようで

かなり黄ばんでいる。



案内された私達姉弟

他にも部屋が

浴室が、トイレがあるのかと思い

四畳半の和室の押入れを開けたり

辺りをキョロキョロと眺める。




「...。お風呂は無いの...。

     これからは、毎日お風呂屋さんよ。

   貴方達、お風呂屋さん好きでしょう?

   

    お手洗いは、アパートの皆で

    一つ。

    皆で協力して、頑張ろうね...。」


母が不憫そうに私達姉弟に声をかける。


しかし私達姉弟は新しい住まい

初めての転居を喜んでいた節がある。


確かに、父が自宅近くの銭湯に

たまに連れて行ってくれるのが

楽しみだった私は、それが毎日に

なる事が楽しみだった。


トイレが建物に一つしかない事も

寧ろワクワクすることだった。


明後日の4月7日から

学校が始まる事を考えると

4月5日の夜から

引越し先ので生活を始めるのは

両親からすれば、時間的に

ギリギリのタイミングであったのだろう。



そして悪魔は標的を

家族のうち最年少の

私に絞った。


これから約3年間

私は「家が貧乏」である事を理由に

虐めを受ける事になるのだ。