野良犬。故郷に帰る。

煮え湯を飲まされ、辛酸を舐め、砂を噛むような思いをしても、故郷に帰る夢は諦めない。

その日 何が起きていたのか 3

会社の預金が無いことを、2度の金融機関からの電話で知らされた父は

捜索願より先に、会社の通帳を持ち足早に金融機関へと向かった。

どちらの金融機関も、徒歩10分も掛からない。

さっきの金融機関からの電話が、何かの間違いであって欲しいと

一縷の望みを抱きながら。

 

その時のことを父はこう言っていた。

「天気がどうとか、何を考えていたなんて

 覚えちゃいない。ただ胃の辺りがスーッとするような

 寒気みたいな感覚だけは今でも覚えている」と。

 

そして金融機関からの電話の内容は哀しいくらいに

事実だった。

1軒めの金融機関でも、2軒目の金融機関でも、念のために行った

3軒目の金融機関でも。

1軒目と2軒目の金融機関は、

20日分の引き落としが終わった翌日3月21日 金曜日に。

3軒目の金融機関は、22日土曜日に、各金融機関とも数千円の残高を

残して預金が消えている。

(当時、金融機関は土曜日の12:00までは営業していた)

 

父の頭の中で全てが繋がった。

考えたくも無い、それを想像する自分を嫌悪するような

血を分けた実の姉を疑わざるを得ない状況。

 

「姉さんが会社の金を持って蒸発した...?」

 

それは現実だった。