野良犬。故郷に帰る。

煮え湯を飲まされ、辛酸を舐め、砂を噛むような思いをしても、故郷に帰る夢は諦めない。

その日 何が起きていたのか 2

3月23日 日曜日の早朝「墓参りに行って来る」

と家を出たまま戻らなかった

父の会社の経理担当であった、父の姉。

当時私たち姉弟は「おばちゃん」と

呼んでいた。

 

3月23日深夜になっても戻らない

おばちゃんの身を案じた父は

翌3月24日の朝一番

再度、おばちゃんが戻って来ていない事を

確認すると、

捜索願を出す事を決め

警察署に行く準備を始めた。

 

今は携帯電話があり

その気になれば何時でも連絡が取れる時代。

当時は一度外出したら連絡をとる方法は、ほぼ無い。

父は思った。

おばちゃんの身に何かあったと。

 

その時、会社の黒電話が

けたたましく鳴り出した。

「はい。〇〇印刷です。」

父は捜索願を出しに行く準備中。

イラつく心を抑えながら電話に出たと

後年私に述懐している。

 

電話の相手は父の会社のメインバンク。

「御社の口座の預金が全ておろされ、

残高がゼロですが?25日の引き落としは

大丈夫ですか?」

 

「そんなはずはないですが...。

確認します」

何だ?何が起こっている?

父も混乱したそうだ。

受話器を置くと、

混乱する父に追い打ちをかけるように

またベルが鳴る。

受話器を取り、何も言えない父に

サブバンクからの電話。

 

「社長?社長ですか?金曜日に

  御社の経理担当の女性が会社の口座の

 預金、全ておろしていきましたが、

25日と月末の支払い、大丈夫ですか?」

 

不安に駆られた金融機関は、

何も知らない父に

その不安の全てをぶつけてくる。

 

「おい、まさか...。まさか?

                     姉さんが...?」

 

率直な父の感想だ。

 

禍は始まったばかり。