野良犬。故郷に帰る。

煮え湯を飲まされ、辛酸を舐め、砂を噛むような思いをしても、故郷に帰る夢は諦めない。

1980年3月24日 全てはここから始まった 1

1980年3月24日 月曜日 東京都23区。天気 晴れ。

陽は延び始めたとは言え、三月下旬の風は

まだまだ冷たく、陽が落ちるのも早い。

その日は、小学校の修了式の日。

私は当時小学校一年生。小さな印刷会社を営む父と専業主婦の母。

一歳違いの姉。父の姉、当時20歳の、その息子の

六人家族。家族全員が仲良く、父の事業も順調で

本当に「何不自由なく」生活していた。

家族の誰もが、漠然と「この幸せはずっと続く」と思っていたと思う。

幸せが続いて欲しいと願うことも無いくらいに漠然と。

唯一の難点(?)は昭和10年生まれの父が、非常に厳格であったこと位。

 

その日は朝から登校し、三学期の通知表をもらい

昼前には翌日からの春休みに備え色々な荷物を両手に提げ下校。

入学から一年しか使っていない、まだまだ綺麗な

黒いランドセルをカタカタ鳴らしながら徒歩約10分程度の帰路を

3,4人の友達と楽しく喋りながら歩いていたことを

まるで昨日のように思い出す事ができる。

前を歩く友達が被っていた黄色い通学帽に付いているジャイアンツのバッジ。

隣を歩く友達の手提げからはみ出した図工の時間に作った友達自慢の作品も...。

 

仲が良かった私たちは春休みに入る、翌日の遊ぶ約束をして別れ

各々の家に向かった。

私も、大好きな家族が待つ家に。

 

私も含めた全員が、翌日遊ぶ約束を私だけが守れなくなるとは

その時は誰も思っていなかった。